[English is below Japanese]
日本にもお弟子さんが多く、日本に縁があるユーフォニアム奏者のトーマス・リューディ氏(Thomas Ruedi)に、設問に答えて頂く形でインタビュー取材を行いました。
ユーフォニアム愛好家や若いプロ奏者の方だけでなく、多くの方に役に立つ回答を頂いていますので、ぜひみなさまご一読ください。
1. まずあなたの生い立ち、どこでどのように育ったのか、プロのユーフォニアム奏者としての活動を始めたきっかけは何だったのか、などについて教えて頂けますでしょうか?
私はスイスのベルン近郊の美しい田園地帯にある人口600人の小さな村で生まれました。
私は物心ついたときから音楽が大好きでした。父は村のブラスバンドのテューバ奏者で、母は村の合唱団で歌い、兄もユーフォニアム奏者でした。彼の金管楽器演奏と音楽全般に対する熱意は、私に大きな影響を与えました。私たちは一緒に、さまざまなバンドのLPや、主にトランペットの名手モーリス・アンドレのLPを何時間も聴き続けました!
11歳でユーフォニアムを始めた頃には、すでにトランペットの協奏曲やアリア、変奏曲のソロをほとんど暗譜していました。
当時は一般的だったように、音楽は単なる趣味として扱われ、私はまず電気技師/プランナーになるための訓練を受けました。しかし、自由な時間はユーフォニアムをバンドやソリストとして演奏することに費やしました。20歳の時、私は義務兵役に入らなければならなくなり、軍楽隊で過ごしました。基本的な軍事訓練を受けた後、兄と私は電気会社を設立するつもりでした。しかし、ビジネスの世界に飛び込む前に、少なくとも人生のいくらかの時間を、やはり私の初恋である音楽についてもっと学ぶことに捧げたいと強く思ったのです!私は快適なスイスの家を出てイングランドに渡り、シェフィールド大学でユーフォニアム、指揮、作曲を学びました。
私は音楽に非常に飢えていたし、できる限り多くの音楽文化を吸収しました。ブラスバンド、合唱団、オーケストラ、作曲、指揮が私の人生の情熱となりました。イングランドでは、ソリスト、アレンジャー、指揮者としての私の需要が高まっていました。スイスに戻った後、もはや起業という当初の計画には従えないことが明らかになり、私は音楽活動に人生を捧げるようになったのです。
2. これからユーフォニアムを始めたいと考えている人や、演奏を始めたばかりの人に向けて、ユーフォニアムやユーフォニアムのために書かれた作品にあなたがどのような魅力を感じているかについて教えて頂けますか?
まず聴く人の心を打つのは、ユーフォニアムが持つ美しい音質です。
その力強いメロディックな歌声と技術的な敏捷性により、どんなスタイルの音楽でも捉えることができる万能なソロ楽器となっています!
私は常にユーフォニアムを、特定のスタイルというよりも「声」として扱ってきました。だから私にとって、自分が楽しんで手に入れられるレパートリーなら何でも演奏する、というのは常に明確でした。最初の頃は、主にトランペットのレパートリー(家にあったもの)を演奏していましたが、その後、クラシックやポピュラー音楽のレパートリーからもメロディーや作品を演奏するようになりました。その後、チェロとファゴットのレパートリーの中に、質の高い音楽の世界を見つけました。これが、チャイコフスキーの「ロココ変奏曲」を含む、ヴィルトゥオーゾ・ロマン派のレパートリーの名曲を収録した私の最初のソロ・アルバム『エレジー』につながりました。
学生時代にはユーフォニアムのオリジナル・レパートリーにも出会い、幅広く勉強し、演奏しました。演奏家として、また指導者として、レパートリーの選択についてオープンマインドでいることが大切だと思います。「正しい」レパートリーを見つけることは、生徒の心を開くための、耳を開くような感動的な体験になります。J.S.バッハ、モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンといった古の巨匠たちは、楽器のために書かれた新しいオリジナル作品と同じくらい、音楽教育の一部であるべきです。昨今では、音楽の魂や深い意味を発見することよりも、楽器を演奏する技術的な側面に焦点が当てられているようです。私たちは、聴いた瞬間に人生が変わるような音楽の、魂のこもった音楽表現の奥深さを再発見する必要があります。それは演奏者も聴き手も心を動かされることのない技術的な完璧さを見せようと努力することではなく、内なる旅なのです。
3. 練習や演奏をする際、例えばソロリサイタルの際やオーケストラのメンバーとして舞台に上がる際に、特に注意していることや心がけていることはありますか?
私は演奏する音楽を深く研究しています。歴史的背景、作曲家、形式、スタイル、フレージング、意味など、その曲のすべてを知りたいと思っています。曲を理解したら、楽器で練習を始めます。ここでは、テンポは別として、すべてが「正しい」ことを確認します!ハイビジョンのスキャナーのように、ゆっくり、細部まで確認するのです!筋肉の記憶が定着すれば、テンポは自動的に流暢になります。
練習段階が終わると、演奏段階が始まります。これはすべて演奏経験に関するものです。まずレコーディングマシンを使って練習し、次に愛猫(彼女が許してくれるなら)、そして家族や友人などにパフォーマンスを披露し、より多くの聴衆の前でパフォーマンスする準備が整うまで練習することができます。
私は頭の中に1,000のポジティブな考えを思い浮かべながらステージに入ります!演奏中は、呼吸を整えることと、心を込めて音楽を「歌う」ことだけを「考え」ます!
4. 演奏家として人生のターニングポイントとなったエピソードや、これまでの活動で最も印象に残っているエピソードがあれば、それらについて教えて下さい。
公演のたびに、私は聴衆とのつながりを求めているし、それが実現したときは、信じられないほど深く、やりがいのある気持ちになります。私のキャリアの中で、たくさんの素晴らしい瞬間があったことに恵まれていると感じています。
いくつか挙げるなら、12歳のとき、村の高齢者コミュニティのためにソロを演奏した(初期の)楽しい思い出があります。彼らはその音楽をとても気に入ってくれたし、自分には人々が聴きたくなるような声があるのかもしれないと思わせてくれました。私は音楽を演奏することにとても興奮したのです。
また、東京のサントリーホールでリヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」をソリストのヨーヨー・マと演奏したことも特別なことでした。あるいは、「スイス陸軍バンド」とのジョージア(国の)でのツアーでソロを演奏したこと、エジプトで「カイロ交響楽団」とコスマの「ユーフォニアム協奏曲」を演奏し、聴衆が初めてユーフォニアムを聴いたこと!ジョーゼフ・ホロヴィッツの「ユーフォニアム協奏曲」をジョーゼフの指揮でイタリア・ツアーで演奏したことも最高でした。私たちは良い友人になりました。
5. ご自身の演奏に強く影響を受けた他の演奏家がいれば、彼らからどのような影響を受けたのか教えて下さい。(クラシックでなくても構いません)
冒頭で答えたように、モーリス・アンドレ(トランペット)の華麗で歌うようなサウンドは私を震撼させ、金管楽器奏者になりたいと思わせました。バーブラ・ストライサンドのエモーショナルな歌声には泣かされたし(今でも泣かされる)、ルチアーノ・パヴァロッティの圧倒的な音楽力は私の人生を変えました。
チェリストのミッシャ・マイスキーはその音楽的情熱のために、パブロ・カザルス(同じくチェリスト)はその解釈の清澄さのために、私は敬愛しました。フランク・シナトラは、フレーズひとつひとつに微妙な、しかしいつまでも続く緊張感があり、マイケル・ジャクソンは、正確さ、グルーヴ感、クールさに対する信じられないほどの愛情がありました。現在でも、ヨーヨー・マ(チェロ)やマリア・ジョアン・ピレシュ(ピアノ)のような音楽家から、特にフレーズの技術から、多くのインスピレーションを受けています。そして最後に、私の生徒たちから。彼らはとても刺激的で、あらゆる芸術にオープンで、芸術間の架け橋になることをあまり恥ずかしがらない。私は彼らから多くのことを学んでいます!
6. 将来の目標(またはこれから新たに取り組みたいこと)について教えてください。
最近、私は高校生やアマチュア・レベルの奏者のために曲を書くことに時間を割いています。ユーフォニアムのために書かれた曲の多くは、演奏するのが技術的にとても難しく、演奏者は音楽的な意味を理解するのが難しい。もし私が何か音楽に貢献できるのであれば、それはとても幸せなことです。
私は今でも、世界中から集まってくるユーフォニアムの生徒たちと一緒に仕事をするのが大好きです。また、音楽と芸術全般についてもっともっと学びたい。私はまだ55歳で、まだまだ学ぶことがたくさんあるのです!
7. 最後に、日本の若い演奏家(アマチュアを含む)やプロの演奏家を目指す日本の学生たちにアドバイスをお願いします。
一般的に、プロのミュージシャンの中には、まだ 「成功 」していない人がたくさんいます。私が言いたいのは、学業を終えてから将来の目標を見つけるまでの間に行き詰っているということです。音楽の才能や夢を持つことは素晴らしいことです。しかし、夢を実現させたいなら、目を覚まさなければならない!
私の個人的な見解では、プロの音楽家になるには、単に楽器を上手に演奏するだけでなく、もっと多くのことが必要です。私は教師として、生徒たちが音楽について学ぶべきことはすべて学ぶよう勧めています。理論、歴史、作曲と編曲(とても重要)、指揮(音楽の最高学問分野)、指導(教師が一番学ぶ!)、音楽研究(深く考える)などです。
私にとって、「キャリア」を持つことは決してゴールではありませんでした。私はいつも、自分のプロダクト(製品)に取り組むことだけに集中してきました。新しいリサイタル、他のアーティストとの新しいコラボレーション、新しいレコーディング、教えること、新しい曲を書くこと。私は、生徒たちがしばしば本当に何も「プロデュース(生産)」していないことが多いということを観測しています。ただ練習しているだけです。しかし、何のために?音楽家であるということは、芸術と創造がすべてであるべきで、コンクールのために完璧を目指す練習をすることではないはずです。創造的でありたいなら、(ソーシャルメディア上で)他の人が何をしているかではなく、自分自身に集中しなければなりません。成功への扉は内側に開くのです!
また、生徒たちはビジネスや財務についてもっと学ぶべきだと私は思います。彼らは結局のところ、起業家へと向かっているのです。私は生徒に「どのように音楽(アート)を作り、観客に見せることができるか、10種類のアイデアを書き出してください」という課題を出しています。
最後に、刺激的で創造的なアマチュア・ミュージシャンであることは、まったく悪いことではありません。アマチュアの語源は 「amare」(楽しむ)であり、プロフェッショナルの語源は 「profit」(金銭的利益)です。
インタビューは以上です。リューディさん、ありがとうございました!
ぜひCDやYou Tube、演奏会などでリューディさんの音楽に触れていただきたいと思います。
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取材・文:梅本周平(Wind Band Press)
Interview with Thomas Ruedi, Euphonium1. Would you start by telling me about your background, where and how you grew up, and how you got started as a professional Euphonium player?
I was born in a very small village of 600 people in the beautiful countryside near Bern, Switzerland.
I always loved music very dearly, for as long as I can remember. My father was a tuba player in the village brass band, my mother sang in the village choir and my older brother was a euphonium player too. His enthusiasm for brass playing and music in general had a huge influence on me. Together, we listened to LPs of various bands and mostly of the trumped virtuoso Maurice Andre for hours on end!
By the time I started playing the euphonium at the age of 11, I already knew most of the trumpet concertos and Air & Variation solos by heart.
As it was common in those days, music was treated merely as a hobby, and I was trained to becoming an electrician/planner first. In my free time though, every minute was spent playing my euphonium in bands and as a soloist. Aged 20, I had to join the compulsory army service which I spent in the military band. After the basic military training, my brother and I were planning to form an electrical company. But before diving into the business world, I felt a strong desire to dedicate at least some time of my life to learning more about music, which was, after all, my first love! I left my comfortable home in Switzerland and moved to England to study euphonium, conducting and composing at the Sheffield University.
I was extremely hungry for music, and I soaked up as much of the musical culture I possibly could: brass bands, choirs, orchestras, composition and conducting became my life’s passion. In England, there was a growing demand for me as a soloist, arranger and conductor. After returning to Switzerland, it was becoming clear that I could no longer follow the original plan to starting a business and I fully committed my life to music.
2. For those who are thinking about starting the Euphonium or have just started playing, would you tell me about your attraction to Euphonium and the works written for Euphonium?
The first thing that strikes the listener, is the beautiful sound quality the euphonium possesses.
Its strong melodic voice and the technical agility make it such a versatile solo instrument – capable of capturing ANY style of music!
I have always treated the euphonium as a “voice”, rather than a particular style. So, for me, it was always clear that I would be playing ANY repertoire I would enjoy and get my hands on. At the beginning, I was playing mostly trumpet repertoire (that’s what we had in the house), then also melodies and works from the classical- and popular music repertoire. Later, I found a musical universe of high-quality music in the repertoire of the cello and bassoon. This led to my first solo album “Elegy” which features master pieces from the virtuoso romantic repertoire, including Tchaikovsky’s “Roccoco Variations”.
As a student, I was also introduced to the original euphonium repertoire, and I studied and performed it extensively. As a performer and teacher, I believe that it is important to keep an open mind about the choice of repertoire. Finding the “right” repertoire can be such an ear-opening and inspirational experience for the heart and mind of a student. The old great masters such as J.S. Bach, Mozart, Schubert and Beethoven should be as much a part of the musical education as the new original works written for the instrument. Nowadays, there seems to be more focus on the technical aspects of playing an instrument, rather than discovering the soul and the deeper meaning of music. We need to re-discover the depth of the soulful, musical expression – music that changes your life on hearing it. It’s a journey inward, rather than striving towards a display of technical perfection which doesn’t move the performer nor the listener.
3. When practicing or performing, for example, in a solo recital or on stage as a member of an orchestra, is there anything you pay special attention to or keep in mind?
I study the music I’m performing in great depth – I want to know absolutely everything about it: historic context, composer, form, style, phrasing and meaning. Once I understand the piece, I start practicing it on the instrument. Here, I make sure that I do everything “right”, apart from the tempo! I work like a scanner on high definition – slow and in great detail! The tempo will automatically get more fluent when the muscle memory sets in.
After the practice stage, the performance phase begins. This is all about performance experience. You can practice your performance using a recoding machine first, then perform for your cat (if she lets you), then your family and friends etc., until you’re ready to perform for a greater audience.
I enter the stage having 1’000 positive thoughts in my head! While playing, all I “think” about is breathing and “singing” the music with all my heart and soul!
4. If you have any episodes that were turning points in your life as a player or that have left the greatest impression on you in your past activities, would you tell me about them?
With every performance, I’m seeking to connect with my audiences and when this happens, it’s an unbelievably deep and rewarding feeling. I feel blessed for having had so many wonderful moments in my career – to name a few:
I have fond (early) memories of playing some solos for the village senior community at the age of 12 – they absolutely loved the music, and it made me think that perhaps I have a voice that people might like to listen to – I got very excited about performing music.
Also, performing Richard Strauss’ “Don Quixote” at the Suntory Hall in Tokyo, with Yo-Yo Ma as a soloist, was very special. Or perhaps playing solos with the “Swiss Army Band” on tour in Georgia (the country), – or performing the “Cosma Euphonium Concerto” with the “Kairo Symphony Orchestra” in Egypt, where the audience heard a euphonium for the first time ever! Another highpoint was performing Joseph Horovitz’ “Euphonium Concerto” on a tour of Italy with Joseph conducting – we became good friends.
5. If there are other players who have strongly influenced your playing, would you tell me how they have influenced you? (It does not have to be classical music)
At the beginning, the brilliant, singing sound of Maurice Andre (trumpet) really shook me up and made me want to become a brass player. The emotional singing of Barbara Streisand made me cry (and still does) and the sheer musical power of Lucian Pavarotti was life changing for me.
The cellist Mischa Maisky I adored for his musical passion, Pablo Casals (also cello) for his pristine clarity of interpretation. Frank Sinatra for his subtle, but everlasting tension in every single phrase – Michael Jackson for his unbelievable love for precision, groove and coolness. Nowadays, I’m still drawing a lot of inspiration from musicians such as Yo-Yo Ma (cello) or Maria Joao Pires (piano) – particularly from their art of phrasing. And, finally, from my students – they are so inspired and open to all kinds of arts – They are less shy to cross the bridge between the arts – I learn so much from them!
6. Would you tell me about your future goals (or new initiatives you would like to undertake in the future)?
Recently, I devoted some time to writing music for high school- and amateur level players. A lot of the music written for euphonium is technically so demanding to play, that the performers have difficulties getting to the bottom of the musical meaning. If I can contribute some music, that would make me very happy.
I still tremendously love working with my euphonium students which come from all the corners of the world. I also want to learn so much more about music and art in general – I’m only 55 and I still have so much to learn!
7. Finally, what advice would you give to young Japanese performers (including amateurs) and Japanese students who aspire to become professional players?
In general, there are quite a lot of professional musicians, who have not quite “made it” – what I mean by that is that they are getting stuck between finishing their studies and finding their future goals. It’s great to have musical talent and to have dreams. But if you want your dreams to become true, you must wake up!
In my personal view, being a professional musician involves a whole lot more than just playing an instrument well. In my work as a teacher, I encourage students to learn everything there is to be learned about music: theory, history, composing and arranging (very important), conducting (the master discipline of music), teaching (the teacher learns the most!) and music research (thinking deep).
For me, having a “career” was never a goal – I have always just focused on working towards my own products: a new recital, seeking new collaborations with other artists, a new recording, teaching, or writing a new piece. I’m observing that students often not really “produce” anything – they just practice – but what for? Being a musician should be all about art and creation, not just practice towards perfection for a competition. If you want to be creative, you must concentrate on yourself, not what other people are doing (on social media) – the door to success opens inward!
I also find that students should learn more about business and finances – they are, after all, moving towards becoming entrepreneurs. I give my students an assignment: Write down ten different ideas how you can create music (art) and display it to an audience.
Finally, there is absolutely nothing wrong with being an inspired and creative amateur musician. The word amateur comes from “amare” (enjoyment) and the word professional stems from the word “profit” (financial gain).
Interview and text by Shuhei Umemoto (Wind Band Press)
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